「この工具は経費でいいのか?」「作業着は? 組合費は?」——一人親方として確定申告をするとき、いちばん迷うのが経費の線引きです。周りに聞くと「全部落とせる」「収入の半分まで」など根拠のあいまいな答えが返ってきて、かえって不安になります。

この記事は、私(このサイト=無料の出面帳・人工請求書ツール「デヅラ帳」の運営者)が、国税庁タックスアンサーと厚生労働省の公表資料を実際に確認したうえで(2026年7月29日確認)、建設業の一人親方によく出る支出——工具・作業着・車・組合費——の線引きを出典つきで整理したものです。税額の計算や個別の可否判断はこの記事ではしません。迷う支出の最終判断は税務署・税理士に確認してください。

経費の大原則——「何%まで」ではなく「仕事に必要と説明できるか」

まず結論です。「収入の何%まで経費にできる」という決まりはありません。国税庁タックスアンサーNo.2210は、必要経費にできる金額を次のように説明しています(2026年7月29日確認)。

かみくだくと、その支出が「仕事の売上を得るために必要だった」と説明できるかどうかがすべてです。逆に言えば、仕事に必要な支出なら費目の名前や割合に関係なく経費になり、仕事に関係ない支出は1円でも経費になりません。

「じゃあ判断は主観次第か」というと、そうではありません。説明の裏付けになるのは領収書・請求書と、いつ・どの現場のために使ったかという日々の記録です。この記事の各論はすべて、この大原則の当てはめです。

建設業の一人親方によく出る費目一覧

建設業の一人親方の実務でよく出る支出を、考え方の目安と一緒に一覧にします。◯=業務のための支出なら経費に算入するのが一般的、△=仕事分と私用分を分ける必要あり(または扱いに注意)です。個別の可否は状況で変わるため、最終判断は税務署・税理士へ。

費目目安考え方
工具・電動工具・道具類仕事用なら経費。ただし10万円以上は減価償却など金額で扱いが変わる(次の章)
材料費・消耗品(刃・ビス・テープ類)仕事で使う分は経費。自宅用と混ざる買い物はレシートに印を付けて区分
作業着・安全靴・ヘルメット現場でだけ使うものは経費とする扱いが一般的。普段着と兼用できる服は難しい(家事関連費の考え方)
車(ガソリン・車検・保険・駐車場)仕事専用車なら経費。私用と兼用なら家事按分(後述)。車両本体は減価償却
高速代・現場までの交通費現場への移動は業務のための支出。日付・現場名とセットで記録
携帯電話・通信費仕事の連絡・写真送付等の分を按分
組合費・団体の会費事業に関係する団体の会費は経費として扱われるのが一般的。ただし一人親方労災の「保険料」部分は経費ではない(後述)
現場の付き合い(差し入れ・会合)仕事上の関係先との飲食等は交際費として扱われるのが一般的。相手と目的をメモに残す
請求書・帳面まわり(用紙・印紙・アプリ代)請求・記帳のための支出は経費。収入印紙・振込手数料も同様

注意: この表は国税庁タックスアンサーの原則(業務上の費用・家事関連費の区分)に沿った一般的な整理で、「必ず認められる」ことを保証するものではありません。金額が大きいもの・判断が割れそうなものは、申告前に税務署・税理士に確認するのが確実です。

工具・機械は「金額」で扱いが変わる——10万円・20万円・30万円の壁

工具・機械・車両で押さえておきたいのが、買った金額によって「その年に全額経費」か「数年に分ける(減価償却)」かが変わることです。国税庁タックスアンサーNo.2100(減価償却のあらまし)には次のようにあります(2026年7月29日確認)。

使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とします

整理すると次の4段階です。

取得価額扱い
10万円未満(または使用可能期間1年未満)その年に全額経費
10万円以上20万円未満一括償却資産として3年で3分の1ずつ経費にできる仕組みあり
10万円以上30万円未満(青色申告の場合)一定の要件でその年に全額経費にできる特例あり(年合計300万円まで・取得期限の定めあり=現行は令和8年3月31日までに取得したもの)
上記以外(高額の機械・車両など)減価償却で法定耐用年数に応じて数年に分けて経費化

実務での使い方はシンプルで、「10万円を超える買い物をしたら、レシートを取っておくだけでなく扱いを確認する」と覚えておけば大きな間違いは避けられます。青色申告の30万円特例は要件(青色申告であること・取得時期など)があるので、使う前に国税庁ページか税理士で確認してください。

車・携帯など兼用の支出は「家事按分」——割合の根拠は記録

一人親方の経費でいちばん揉めやすいのが、仕事と私生活の両方で使う支出(家事関連費)です。通勤にも買い物にも使う車、仕事の連絡にも私用にも使うスマホがその代表です。

国税庁タックスアンサーNo.2210は、家事関連費について次のように説明しています(2026年7月29日確認)。

取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます

ポイントは2つあります。

ここで効いてくるのが、毎日つけている出面の記録です。「今月22日現場に出た」という出面の記録は、その22日間は車を仕事で使っていたことの裏付けそのものです。出面をつける習慣がある人は、按分の根拠づくりの半分がすでに終わっています(出面のつけ方の基本は「「出面」とは?——読み方と意味、出面管理の基本」で解説しています)。具体的な按分割合の決め方・計算は個別性が高いので、税務署・税理士に相談してください。

組合費と一人親方労災の保険料——実は扱いが違う

建設業の一人親方に特有で、かつ間違えやすいのがここです。多くの一人親方は、現場に入るために労災保険の特別加入団体(いわゆる一人親方労災の組合)に入り、「組合費」と「保険料」をまとめて払っています。この2つ、税金上の扱いが違います

① 労災保険(特別加入)の保険料——経費ではなく「社会保険料控除」

労災保険は本来労働者のための制度ですが、建設業の一人親方は特別加入団体を通じて特別加入できることが厚生労働省の制度案内に明記されています(2026年7月29日確認)。

そしてこの特別加入の保険料について、国税庁タックスアンサーNo.1130(社会保険料控除)は、控除の対象となる社会保険料として「労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料」を挙げています。つまり、労災の保険料は「経費」ではなく「社会保険料控除」——確定申告書の控除欄で、国民年金や国民健康保険と同じ枠に入れて全額を所得から差し引くものです。

「経費に入れても控除に入れても、引けるなら同じでは?」と思うかもしれませんが、記入する場所が違いますし、経費と控除の両方に入れる二重計上は誤りです。保険料は控除欄、と覚えてください

② 団体の入会金・組合費(会費)——保険料とは別の支出

一方、特別加入団体に払う入会金や毎月の組合費(会費)は、労災の保険料そのものではありません。現場に入って仕事をするために必要な団体会費は、業務上の支出として必要経費に算入する扱いが一般的です(この点は国税庁タックスアンサーに個別の明文があるわけではないため、大原則〈業務上の費用〉からの整理です。迷う場合は税務署へ)。

実務のコツはひとつ: 団体からの領収書・案内で「保険料」と「会費」の内訳を確認し、分けて記録しておくこと。まとめて1本で記録してしまうと、申告のときにどちらへいくら入れるのか分からなくなります。

経費に「ならない」もの

逆に、よく誤解されるが経費にならない支出も押さえておきます。

なお、常用と請負で働き方や請求の形が変わっても、経費の大原則は同じです(常用・請負の違いと「偽装一人親方」の線引きは「常用と請負の違いとは【建設業】」で解説しています)。

経費の主張は記録がすべて——出面と一緒にメモする

ここまでの線引きは、すべて「記録があって初めて主張できる」ものです。レシートが束であっても、「いつ・どの現場のための支出か」がつながらないと、家事按分の区分も交際費の説明もできません。

建設の一人親方には、これをいちばん簡単にする習慣がすでにあります。毎日の出面づけです。

月末にはその出面記録がそのまま請求の根拠になります(請求書の書き方は「人工(にんく)代の請求書の書き方【記入例つき】」、単価の考え方は「人工(にんく)単価の相場【2026年版】」へ)。収入側は出面、支出側は経費メモ——両方そろって、はじめて確定申告が「作業」になります

よくある質問

Q1. 一人親方の経費は収入の何%まで認められますか?

「収入の何%まで」という上限の決まりはありません。国税庁タックスアンサーNo.2210は、必要経費を「総収入金額を得るために直接要した費用」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用」と説明しており、判断基準は割合ではなく、その支出が仕事のために必要だったと説明できるかどうかです。割合を目安に経費を作るのではなく、実際に仕事のために使った支出を漏れなく記録するのが正しい順序です。個別の可否は税務署や税理士に確認してください。

Q2. 作業着や安全靴は経費になりますか?

仕事でだけ使う作業着・安全靴・ヘルメット・手袋などは、業務のための支出として必要経費に算入する取り扱いが一般的です。一方、普段着としても着られる服は、国税庁タックスアンサーNo.2210の家事関連費の考え方(業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限る)から、経費にするのは難しくなります。「現場でしか使わないもの」と「私生活と兼用のもの」を分けて考え、迷うものは税務署・税理士に確認してください。

Q3. 一人親方労災保険(特別加入)の保険料は経費になりますか?

保険料そのものは必要経費ではなく「社会保険料控除」の対象です。国税庁タックスアンサーNo.1130は、社会保険料控除の対象として「労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料」を挙げています。経費に入れるのではなく、確定申告書の社会保険料控除欄で全額を所得から差し引きます。なお、特別加入団体に払う入会金や組合費(会費)の部分は保険料とは別の支出なので、団体発行の領収書などで内訳を分けて記録しておくと申告時に迷いません。

Q4. 10万円を超える工具や機械を買ったときはどうなりますか?

国税庁タックスアンサーNo.2100によると、取得価額10万円未満(または使用可能期間1年未満)のものは全額をその年の必要経費にできますが、10万円以上は原則として減価償却で数年に分けて経費化します。ただし10万円以上20万円未満は3年で3分の1ずつ経費にできる一括償却の仕組みがあり、青色申告をしている場合は30万円未満まで一定の要件で全額をその年の経費にできる特例(取得期限の定めあり)があります。金額帯で扱いが変わるため、購入前に確認しておくと申告が楽になります。

Q5. 車を仕事と私用の両方で使っています。ガソリン代や車検代はどうなりますか?

仕事と私生活の両方にかかる支出(家事関連費)は、国税庁タックスアンサーNo.2210で「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」とされています。つまり「なんとなく半分」ではなく、仕事で使った分を記録で示して按分するのが原則です。どの日にどの現場へ行ったかという毎日の出面記録は、車を仕事で使っていた事実を裏付ける身近な記録になります。按分割合の決め方は税務署・税理士に相談してください。

線引きに迷ったら「大原則+記録」に戻る

経費の線引きは、突き詰めれば「仕事のために必要だったと、記録で説明できるか」の一点です。◯◯は何%まで、という裏ワザ的な知識を集めるより、毎日の出面と一緒に支出をひと言メモする習慣のほうが、申告のときにずっと強い味方になります。そして迷う支出が出たら、この記事の出典(国税庁タックスアンサー)を確認したうえで、税務署・税理士に聞く——それがいちばんの近道です。

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出典(一次資料・すべて2026年7月29日確認)


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